祝いの花


 湖に浮かぶ亭の煮炊き場では大鍋が火にかけられていた。炒った湖魚で取った出汁の香りが熱に乗って辺りに漂う。胸いっぱいに吸い込み、リリは山のように摘んだ色とりどりの花に手を伸ばした。
 セスバニはつぼみを、ジェードはいっぱいに開いた花を、リリウムは雌しべにえぐみがあるから花弁だけ。ひとつずつ丁寧に洗ったら鍋から湖魚をあげて、花を出汁にくぐらせる。花は熱を通すと色鮮やかになり、艶を増して甘い香りを振り撒いた。
 花鍋は祝いの席で食べるダナウの民の伝統料理だ。幸せを祈り、神の加護に感謝し、皆で分け合って食べる。それに相応しい味になっただろうか――一口舐めて、不安は自信に変わった。
「さあ、今日はお祝いだよ!」



 /  目次に戻る  / 

小説トップ/サイトトップ